バックビートの歴史 — ゴスペルからロックンロールへ

バックビートの歴史 — ゴスペルからロックンロールへ

このレッスンで学べること:

  • バックビートの起源をめぐる諸説(ゴスペル・ニューオーリンズ・ストリングバンド)
  • 1948〜49年、R&Bでバックビートが「主役」になった瞬間
  • ロックンロールを支えた代表的ドラマー、アール・パーマーの功績
目次 (6)

起源は一つではない — 三つの源流

「バックビートは誰が発明したのか?」——私もこの問いを調べて回りましたが、答えは「一人の発明者はいない」です。研究者の整理では、バックビートには少なくとも三つの源流があるとされます。

  1. アフリカ・カリブの音楽文化が、港町ニューオーリンズを経由してアメリカ音楽に流れ込んだ系統
  2. ゴスペル(教会音楽)の、"rocking and reeling" と呼ばれる体を揺らしながらの歌と手拍子
  3. ブルーグラスやストリングバンドで、ベースの「ブン」の合間にギターやバンジョーが「チャッ」と刻むスタイル

つまりバックビートは、複数の文化のリズム感覚が20世紀前半のアメリカで合流して生まれた、いわば「合作」なのです。

最古の録音はゴスペルの手拍子だった

録音として残る最古級の例は、意外にもドラムではなく手拍子です。1926年に録音されたゴスペル曲「Way Down In Egypt Land」には、2・4拍目で打たれる手拍子(クラップ)がはっきり記録されています。1929年のBiddleville Quintetteによる同曲の再録音では、手拍子に加えてタンバリンや打楽器も加わりました。

教会の手拍子:
拍:    1     2     3     4
会衆:  ・   チャン!  ・   チャン!
       (歌)  (clap) (歌)  (clap)

日曜の教会で、信徒たちが体を揺らしながら2・4拍目で手を叩く——ロックの「タン!」の原型は、この祈りの風景の中にありました。ロックの殿堂が「The Backbeat of God(神のバックビート)」という記事でゴスペルとロックの血縁を語っているのは、決して比喩だけではないのです。

1948年、R&Bがバックビートを「主役」にする

弱拍へのアクセント自体は20世紀前半のアメリカ音楽に広く存在しましたが、「backbeat」という言葉が一般化したのは1950年代初頭、ロックンロールの登場とともにでした。その直前、決定的な転換点になったのがR&B(リズム・アンド・ブルース)です。

1948年、ワイノニー・ハリスの「Good Rockin' Tonight」(原曲はロイ・ブラウンが1947年に発表)がR&Bチャート1位を獲得します。荒々しいサックスと、ソックリそのまま後のロックンロールの設計図になる強烈なバックビート。この曲は「ロックンロール前夜」を象徴する1枚としてよく挙げられ、のちにエルヴィス・プレスリーもカバーしました。

アール・パーマー — バックビートを叩き続けた男

そして1949年、ニューオーリンズのドラマー、アール・パーマーがファッツ・ドミノのデビューヒット「The Fat Man」でドラムを叩きます。パーマーはのちにこう語っています。

「あの曲は、曲全体を通して強いアフタービートが必要だった。ディキシーランドジャズでは、強いアフタービートは最後の盛り上がりのコーラスでしか出てこない。……あれはリズム音楽への新しいアプローチみたいなものだった」

「曲の一部」ではなく「曲全体を貫く」バックビート——ここがパーマーの革新でした。彼はその後もリトル・リチャードの「Lucille」などのヒットを支え、2000年にはセッションミュージシャンとして初期にロックの殿堂入りを果たしています。

ディキシーランド: 最後のコーラスだけ 2・4 を強打
パーマー以降:    イントロから最後まで 2・4 を強打し続ける

ロックンロールの心臓になる

1950年代、バックビートはロックンロールの「定義」そのものになります。チャック・ベリーは1957年の「Rock and Roll Music」で、"It's got a backbeat, you can't lose it"(バックビートが効いてるから、ノらずにいられない)と高らかに歌いました。リズムの専門用語が、ヒット曲の歌詞として歌われる——バックビートがどれほど時代の合言葉だったかがわかります。

以降、ソウル、ファンク、ディスコ、ヒップホップと、ポピュラー音楽は形を変え続けますが、「2・4のスネア」という心臓部は今日までほぼ揺らいでいません。教会の手拍子から始まった小さなアクセントは、約100年かけて世界標準のリズムになったのです。

次のレッスンでは、このバックビートを「知識」から「体感」へ変えるための聴き方と練習法を紹介します。

参考

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青野俊樹(現役マーケター)

現役マーケターとして、マーケティングを軸に気になったテーマを調べて体系立てて発信しています。 運営方針 は メディアについて をご覧ください。